スペイン北部・バスク地方に位置するビルバオは、かつては工業都市として知られていたが、いまや「アートと美食の街」として世界中の旅行者を魅了している。グッゲンハイム美術館を中心とする都市再生、ピンチョス文化を代表とする豊かな食文化、そして熱狂的なサッカーファンが集うアスレティック・クラブの存在——この街の魅力は多面的で奥深い。

ビルバオの特徴
ビルバオはビスカヤ川沿いに広がる港湾都市で、スペインでも独自の文化と歴史を持つバスク州の最大都市。独自の言語「バスク語(Euskera)」とスペイン語が併用される点が特徴的だ。20世紀前半までは造船や製鉄業が盛んで、いわば労働者の街だった。しかし、1997年のグッゲンハイム美術館の開館を契機に、街のイメージは一変。山と海に囲まれた自然豊かなロケーションに加え、街並みは近代建築と歴史的建築が共存し、ヨーロッパでも有数のカルチャー都市へと進化を遂げた。
アートの街・ビルバオ
ビルバオを語るうえで欠かせないのが、グッゲンハイム美術館の存在だ。建築家フランク・ゲーリーが設計したこの現代美術館は、チタンの外壁がまるで巨大な彫刻のように輝き、まさに“建築そのものがアート”と評される。美術館の前にはジェフ・クーンズの巨大な犬「パピー」が鎮座し、フォトスポットとしても人気。アートは美術館の中だけにとどまらず、街全体にパブリックアートが点在し、日常と芸術が自然に融合している。


美食の街・ビルバオ
バスク地方はスペインの中でも特に美食のレベルが高く、ミシュラン星付きレストランの数も多い。とはいえ、ビルバオの本質は“肩肘張らない美味しさ”にある。街角に点在するバルでは、小皿料理「ピンチョス(Pintxos)」をワインやチャコリ(バスク産白ワイン)とともに味わえる。地元の人々はバルをハシゴしながら、料理と会話を楽しむ。これが、ビルバオならではの贅沢な時間だ。
サッカーとの密接な繋がり
アスレティック・クラブは、地元出身選手のみで構成されるという独自の哲学を持つクラブ。サン・マメス・スタジアムは“ビルバオの大聖堂”とも呼ばれ、試合の日には街全体が赤と白のクラブカラーに染まる。スポーツと地域アイデンティティがここまで強く結びついた街は、スペイン広しといえども稀有な存在だ。

人の特徴
バスク人は、誇り高く、温かく、よくしゃべる。初めて訪れる人にもフレンドリーに接しながら、地元文化に誇りを持っている。伝統を重んじつつも、新しいものを受け入れる柔軟さがある。街のいたるところでその姿勢が垣間見える。
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地元民も通う、ビルバオのおすすめバル5選
ここからは、観光客だけでなく地元の人にも愛されているおすすめのバルを紹介する。どこも個性豊かで、ビルバオらしさを感じられる名店ばかりだ。
1. LA PASARELA(ラ・パサレラ)
スタイリッシュな内装と創作ピンチョスが魅力
LA PASARELAは、ミシュランに載っていなくてもわざわざ訪れたくなる、感度の高い人々の間で静かに話題を呼んでいる創作系バルである。モダンな内装とアート感ある空間で、クラシックとモダンを融合させたピンチョスを提供。季節ごとに内容が変わるピンチョスは、見た目も味も洗練されていて、まるでアート作品。特におすすめは「フォアグラとリンゴのキャラメリゼ」や「海老のタルタル」。
スタッフの接客も丁寧で、ワインとの相性を的確に提案してくれる。価格はピンチョス1品で€3〜4と少々高めではあるが、そのクオリティを考えると納得の設定である。観光地化されていない落ち着いた雰囲気の中で、静かに料理を楽しむことができる。
- エリア:アバンド周辺
- 雰囲気:シックで落ち着いた大人の空間


2. ALISAS(アリサス)
海の幸が自慢の老舗バル
かつての漁師町の名残を色濃く残す、地元の漁師町出身のオーナーが営むこのバルは、鮮度抜群の魚介を使った料理で有名。観光ガイドには載っていないが、地元民からは長年愛されてきた名店で、派手な装飾もなく、どこか昭和の居酒屋を思わせるような温かみのある空間が魅力だ。
特に「イカ墨のクロケッタ」や「マグロのタタキ」は絶品。タコのガリシア風やムール貝の白ワイン蒸しは定番の人気メニューとして知られている。価格帯も良心的で、ピンチョスが€2前後、飲み物も€2程度と、日常使いにちょうどいい。
地元の中高年男性が常連として通っており、観光客の姿は少ない。地元の空気を肌で感じたい人には、まさにうってつけの一軒である。店内は、活気がありながらも気取らず居心地が良い。カウンター席に座って、地元客とのおしゃべりも旅の楽しみになるだろう。
- エリア:サン・フランシスコ地区
- 雰囲気:にぎやかでローカル感たっぷり



3. EKAIN(エカイン)
バスクの伝統を革新で包むバル
伝統と革新が見事に融合したバル、それがEKAINである。バスクの伝統料理にしっかりと根を張りながら、現代的なアレンジを加えることで、訪れる者に驚きと納得の両方を与えてくれる。例えば「バカラオ(塩ダラ)のコンフィ」や「羊チーズとアーティチョークのピンチョ」は、シンプルながら奥深い味わい。王道の肉料理にも工夫が凝らされており、伝統の延長線にある新しさを感じさせてくれる。
内装は木を基調にしたナチュラルな雰囲気で、家庭的で温かみがある。スタッフは親切で、英語対応にも慣れており、旅行者でも安心して食事を楽しめる。価格は中程度で、ピンチョスは€2.5前後、グラスワインも€3程度と、クオリティを考えると非常に良心的である。地元のファミリーやカップルを中心に、外国人の常連客も増えている様子で、観光客とローカルが心地よく混ざり合う空気が魅力的な場所だ。
- エリア:カスコ・ビエホ(旧市街)
- 雰囲気:温かくリラックスできる空間




4. CURE TOKI(クレ・トキ)
ニューバスクを体感できる注目バル
「CURE TOKI」は、バスク語で“良い場所”という意味。若手シェフによって生み出された、いま最も注目されているニューバスク料理の発信地である。バスク語で「良い場所」を意味するこの店名の通り、確かにここには“良いセンス”が詰まっている。
前衛的で大胆な食材の組み合わせに挑みながらも、どこか懐かしさのある風味を残しており、たとえば「イカスミのアイオリとカリカリチーズのピンチョ」や「ビーツのエスプーマとアンチョビ」などは、視覚と味覚の両方で驚きを与えてくれる。
内装はカジュアルながらも洗練されており、オープンキッチン越しにシェフたちの調理の様子を見ることができるのも楽しい。スタッフは若くて親しみやすく、料理への情熱を感じる接客が印象的だ。訪れる客層は20〜40代や、美食に敏感な旅行者が中心で、SNS映えを意識したメニューや内装も多く、近年人気が急上昇している。価格はやや高めで、ピンチョスは€3〜、ナチュラルワインやクラフトドリンクは€5〜となっているが、その分だけ価値ある体験ができる。
- エリア:インディテンディア広場近く
- 雰囲気:若者や感度の高い人が集う洗練空間




5. EL GLOBO(エル・グロボ)
観光客と地元民が混ざり合う人気店
旧市街の入り口にあることもあって、ビルバオのバル文化を体験したい観光客にも、日常的に利用する地元民にも広く支持されている。昼も夜も常に混雑しており、その活気はまるで市場のよう。
とはいえ料理のクオリティは高く、特に「イカのクリームコロッケ」や「ガンバス・アル・アヒージョ(海老のガーリックオイル煮)」は、素材の旨味を活かした逸品としてリピーターも多い。ピンチョス一つひとつの仕上がりも安定感があり、外れがないという安心感がある。
カウンター越しに料理を注文するスタイルで、常に忙しそうなスタッフたちは手際が良く、テンポよく対応してくれる。混雑していても、どこか居心地の良さを感じるのは、このバルが地元に根づいているからだろう。価格は標準的で、ピンチョスは€2.5〜、ワインも€3程度と、観光地価格にはなっていないのがうれしい。地元の学生、オフィスワーカー、観光客、年配の常連——まさにあらゆる人々が交わる“街の交差点”のようなカジュアルな一軒である。
- エリア:ガルシア・リベル通り沿い
- 雰囲気:フレンドリーで親しみやすい







ビルバオの夜を、バル巡りで味わい尽くす
アートを見て、美術館で感性を磨いた後は、ぜひバルで地元の味を堪能してほしい。どの店もそれぞれに個性があり、ビルバオという街の多面性を感じられる。グラス片手に、ピンチョスをつまみながら、地元の空気に溶け込んでいく——そんな旅の楽しみ方が、ここにはある。