イギリスのパブはとてもユニークなカルチャーで、イギリスの生活に深く根付いた重要な社交の場である。本記事では、パブの文化と歴史、インテリアまで詳しく紹介する。
目次
イギリスのパブ文化について

パブ(Pub)とは?
「パブ」は「Public House」の略で、もともとは地域の人々が気軽に立ち寄れる社交の場であった。ビールやエール、サイダーなどのアルコールを提供するだけでなく、軽食やイギリスの伝統的な料理も出される家庭的な場所。
特徴
- 社交の中心:仕事帰りに一杯、日曜の家族ランチ、スポーツ観戦など、様々な場面で活用される。
- 常連文化:地元の人たちが通い詰める「マイ・パブ」があるのも特徴。バーテンダーと常連の距離も近く、名前で呼び合うこともしばしば。
- パブクイズ:知識を競うクイズイベントが夜に開催されることも多い。
- エール文化:ビールの中でも特に「リアルエール」が重視され、樽から直接注がれる自然発酵のエールを楽しむ人も多い。
フード
- フィッシュ&チップス
- サンデーロースト
- シェパーズパイ
- スコッチエッグ など、ボリュームのある家庭的なメニューが定番。
地域ごとにおけるパブ文化の違い

ロンドン(南部)
- 都市型で多様性あり:伝統的なパブもあれば、モダンなガストロパブ(料理に力を入れたパブ)も豊富。観光客向けのパブも多く、内装がクラシック。
- 立ち飲みが多い:特に仕事終わりの時間帯(5~7時頃)は店内が混むため、店外でビール片手に立ち話している人が多め。
- 価格はやや高め:他の地域に比べて1パイントのビールが1~2ポンド高いことも。
北部(マンチェスター、リヴァプール、リーズなど)
- 地元密着型の“ローカル”文化が強い:常連で成り立ってるパブが多く、入りにくい雰囲気もあるが、馴染むととても温かい。
- ビールの価格が安め:ロンドンよりもパイントで1〜2ポンド安いことが多い。
- リアルエール文化が強い:ポンプ式で手動で注ぐ「ハンドポンプ」が一般的。CAMRA(リアルエール推進団体)の影響もあって、こだわりを持つパブも多い。
スコットランド(エディンバラ、グラスゴーなど)
- パブ+ウイスキー文化:パブでもスコッチウイスキーの品ぞろえが豊富で、「ハーフ&ハーフ(ウイスキー+ビールのセット)」を楽しむことができる。
- 音楽ライブが盛ん:フォークやトラッド音楽を演奏するバンドが生演奏してることもよくある。
- 食事の個性がある:ハギスなどスコットランド料理も味わえる店がある。
ウェールズや田舎の村
- コミュニティの中心:本当に小さな村だと、パブが唯一の集会所。郵便局も兼ねていたりすることも。
- 地元のビールが豊富:小規模醸造所の地ビール(クラフトビール)が多く、地元の味に出会える。
- 英語以外のメニュー:ウェールズではウェールズ語の表記もある。

パブならではのインテリア
パブミラー(Pub Mirror)
- パブミラーとは?:酒造メーカー(主にビールやウイスキー)が販促のために作った装飾用ミラー。ブランドロゴやレトロなイラストが施され、パブの壁に飾られている。イギリスのパブ文化を象徴するアイテム。
- 特徴
- 鏡面に描かれたロゴや絵:多くはブランドロゴ(例:Guinness、Bass、Johnnie Walker)が大きく描かれていて、金や赤を基調にしたレトロデザインが多い。また、一部は非常に凝ったアートで、王冠、馬車、伝統衣装の人物、動物なども描かれてる。
- 木製のフレーム:クラシックな木枠がついているものが多く、アンティーク調の家具とよく合う。時には装飾彫刻が施されている高級品も。
- サイズ・形も多様:横長のものが多いが、縦型や円形、楕円形なども存在。小型(30cm四方くらい)から、ドアくらいのものまで多種多様。
- 歴史と背景
- 広告としての役割(19世紀後半〜20世紀初頭):産業革命後、ビール・スピリッツのメーカーが宣伝目的でパブに提供。店側は無料でおしゃれなインテリアを手に入れられ、メーカーは自社製品のPRができる、というウィンウィンの仕組み。
- 現在はコレクターズアイテムに:製造当時のミラーはアンティークとして人気があり、オークションや蚤の市で高値で取引されることも。ヴィンテージのパブミラー専門の収集家もいるほど。
その他のインテリア
- 木製のカウンターやテーブル:温もりある木の質感が特徴。
- ビールポンプ(Hand Pump):リアルエール用のポンプ。デザインも各ブランドごとに個性がある。
- スナッグ(Snug):昔ながらのパブには、女性や上流階級向けの小部屋「スナッグ」が残っていることも。
- 暖炉:寒い時期には本物の薪ストーブが焚かれているパブも。


パブに関する雑学
「The」から始まるパブ名が多い理由
- 例:「The Crown」「The Red Lion」「The White Hart」など。
- 多くは中世の紋章やシンボルに由来。文盲の人が多かった時代に、絵で見分けられるようにしたのが始まり。
看板(パブサイン)のアート
- 外の吊り看板には、動物や王冠、船などの絵が描かれていて、1軒1軒に違う個性がある。
- 現在は、絵画としてコレクションされることも。

ギネスが飲まれるのはアイルランドだけじゃない
- イングランドのパブでもギネスは定番。
- 本場ダブリンのギネスは、よりクリーミーでフレッシュと言われている。
イギリスのパブの外にある黒板(ブラックボード)
- 店頭の通り沿いや入口近くに置かれていることが多い。
- 今日のおすすめ料理(Today’s Specials) や 本日のリアルエール(Guest Ales)、イベント情報、営業時間などが手書きで書かれている、
- 黒板が持つ文化的な意味・魅力
- 「手書き」=親しみと人間味:活字や印刷ではなく、チョークで描かれた手書き文字やイラストが基本。この手書き感が、パブの「家庭的・地域密着」な雰囲気を象徴している。
- パブごとの個性が出るアート性:店によってはアーティスト顔負けの美しいレタリングやイラストが描かれている。ギネスのロゴ、ビールのジョッキ、ピントグラス、パブ猫、ジョークなどが入っていることも。
- ユーモアとジョークが文化の一部:たとえば: “Soup of the day: Gin & Tonic” / “Free Wi-Fi! Great Beer! Terrible Service!” / “Beer is cheaper than therapy!” など。イギリス人の皮肉やジョーク好きを象徴している。
- 黒板から伝わること=パブの“生きた雰囲気:今日のお酒は何か? / 地元の人が集まるイベントはあるか?/ パブがどんな性格(堅実系?陽気系?)か?など黒板一つで感じられる。



「サッカーとパブ」の関係
サッカー観戦の“ホームグラウンド”がパブ
- パブは地元クラブチームを応援する「聖地」。
- 試合当日は、試合の2~3時間前からユニフォームを着た人たちが集まり、エール片手に盛り上がりを見せる。
- 「Home pub(ホームパブ)」と呼ばれる、特定チームのファンが集まる場所も存在。
パブでの“ライブ観戦”文化
- プレミアリーグの試合はSky SportsやBT Sportなどで放送され、大型スクリーンやTVがあるパブが大人気。
- 特に「マンチェスター・ユナイテッド vs リヴァプール」などのビッグマッチの日は、早い時間から満席になるほど。
- 声援、怒号、歓喜の大合唱――まさに“劇場型”の観戦が楽しめる。
「地域」と「クラブ」と「パブ」が一体化している
- 多くのパブは地元クラブと深い関係を持っている。例えば:
- アーセナルのファンが集うThe Twelve Pins(北ロンドン)
- チェルシーファンの聖地The Chelsea Pensioner
- 地元クラブを応援することで、地域コミュニティの一員であることを実感できる場となっている。
サッカー × ビールのシナジー
- 「パイント片手に観戦する」のはイギリスの定番スタイル。
- ビールの売り上げは試合時間に合わせて急増するほど。
- イングランド代表戦やW杯時には、臨時ライセンスで深夜営業するパブも多数。

おすすめのリアルエール

Timothy Taylor’s Landlord(ティモシー・テイラーズ・ランドロード)
- スタイル:ペールエール
- 特徴:英国ペールエールの王道。フルーティーさとホップの香りが絶妙で、非常にバランスが良い。CAMRAの賞も多数受賞。
- おすすめシーン:初めてリアルエールを飲む人におすすめ

Fuller’s London Pride(フラーズ・ロンドン・プライド)
- スタイル:ビター
- 特徴:しっかりしたモルトのコクとキャラメル感。ロンドンの名門ブルワリー「Fuller’s」の代表作。温かみのある味わい。
- おすすめシーン:ロースト料理と合わせてじっくり飲みたいとき。

Adnams Southwold Bitter(アドナムス・サウスウォルド・ビター)
- スタイル:ビター
- 特徴:イースト・アングリア地方の老舗ブルワリー。ほのかな柑橘系の香りと優しい苦味。田舎パブでよく出てくる。
- おすすめシーン:昼飲み

St. Austell Tribute(セント・オーステル・トリビュート)
- スタイル:ペールエール
- 特徴:コーンウォール地方の銘柄で、柑橘系の香りとキレの良さが人気。飲みやすいので万人向け。
- おすすめシーン:軽めの食事に合わせて。

Harvey’s Sussex Best Bitter(ハーヴィーズ・サセックス・ベスト・ビター)
- スタイル:ビター
- 特徴:南部イングランドの伝統ある醸造所。香ばしいモルトの香りと、スムーズな飲み口が特徴。
- おすすめシーン:秋や冬に、暖炉のそばで。

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おすすめのパブフード
Fish & Chips(フィッシュ&チップス)
- 内容:白身魚(コッドかハドック)をビール衣で揚げたもの+フライドポテト
- ポイント:モルトビネガーをたっぷりかけて食べるのが英国流。ピース(マッシーピー)付きが本格的。

Sunday Roast(サンデーロースト)
- 内容:日曜限定で提供される伝統料理。ローストビーフ or チキン+ローストポテト+ヨークシャープディング+グレイビーが定番。
- ポイント:地元民が家族でパブに集まる習慣。ローストラムやターキーも選べる場合あり。

Steak & Ale Pie(ステーキ&エールパイ)
- 内容:ビーフをエールで煮込んでパイ生地で包んだもの
- ポイント:リアルエールと相性○!マッシュポテトとグレイビーがつくことが多い。

Ploughman’s Lunch(プラウマンズ・ランチ)
- 内容:チェダーチーズ、ピクルス、ハム、パン、リンゴなどの盛り合わせ
- ポイント:イギリスらしい「農夫の昼食」風。

Scotch Egg(スコッチエッグ)
- 内容:ゆで卵をソーセージミートで包み、パン粉をつけて揚げたもの
- ポイント:軽食やつまみとして人気。最近は「半熟タイプ」も流行ってる。

おすすめのパブ
The Churchill Arms(チャーチル・アームズ)|ノッティングヒル
- 特徴:外観が花で覆われたパブ
- 歴史:1750年創業。ウィンストン・チャーチルの祖父も常連だったとか。
- 名物:なぜか店内奥は本格タイ料理レストラン
- 住所:119 Kensington Church St, London W8 7LN

Ye Olde Cheshire Cheese(イー・オールド・チェシャー・チーズ)|シティ・オブ・ロンドン
- 歴史:1667年創業、チャールズ2世の時代から続く老舗!
- 雰囲気:地下の暗い石造りの部屋でキャンドルの明かりだけの席も。
- ゆかりの人々:チャールズ・ディケンズやマーク・トウェインが常連。
- 住所:145 Fleet St, London EC4A 2BU

The Famous Three Kings(ザ・フェイマス・スリー・キングス)|ウェスト・ケンジントン
- 特徴:巨大スクリーン+複数テレビで全試合同時中継
- 雰囲気:イングランド代表戦や欧州CLでは満員必至!
- 料理&ドリンク:ビールの種類も多く、軽食も豊富
- 住所:171 North End Rd, London W14 9NL

The Black Griffin(ザ・ブラック・グリフィン)|カンタベリー・ケント
- 特徴:毎週木曜日にはライブ音楽が開催され、地元のミュージシャンによるパフォーマンスを楽しむことができる。
- 雰囲気:歴史的な背景と現代的な魅力が融合した、地元の人々や観光客に愛されるパブ。
- 料理&ドリンク:ケントの地ビールを含むリアルエールが提供
- 住所:40 St Peter’s St, Canterbury CT1 2BG(リンク)

パブに行ったら注意したいこと
- バーカウンターで注文・支払いが基本(席まで来てくれない)
- 自分から声をかけない、バーテンダーが声をかけてくれるのを待つ
- チップは基本不要。ただし、気に入ったら「And one for yourself」と言ってバーテンダーに一杯奢るのが粋
- 「Cheers!」で乾杯
