ギネスビールの泡に、歴史を物語る重厚な煉瓦造りの街並み。アイルランド・ダブリンと聞けば、そんなアイコニックな風景を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、今この島国で起きているのは、単なる伝統の継承ではない。古くから続く職人技を現代の感性で再解釈し、独自のクリエイティビティとして昇華させる、エネルギッシュな変革が目立つ。
先日、スタッフが現地へと飛んだ。そこで目にしたのは、120年前の遺志を守り続ける美術館の静謐や、元銀行を大胆にリノベーションしたパブの喧騒、そして日本にルーツを持つ鹿たちが佇む広大な邸宅。スタッフが実際に足を運び、五感で確かめた「アイルランドのいま」を象徴するスポットを紹介する。
洗練されたセレクトショップ「Irish Design Shop」

ダブリンのクリエイティブ・クォーター、ドルーリー・ストリートに店を構えるこの場所は、ありふれた土産物店とは一線を画す。宝飾職人のクレア・グレナンとローラ・キャフリーが手掛けるのは、アイルランドの熟練工や新進デザイナーによるハンドメイド作品を厳選したセレクトショップ。ローカルブランドを丁寧にキュレーションした店内にはジュエリーの作業台が置かれ、2018年に増設された2階ではオリジナルコレクション「Names」も展開。伝統的な職人技とモダンな感性が美しく融合した空間が広がる。

現地に向かったスタッフが手に入れた「コネマラマーブル」のウイスキーストーンのように、素材のルーツを物語るアイテムが揃うのも魅力。公式サイトで見られる、アイリッシュカットグラスとのスタイリング提案など、異なるブランドを掛け合わせる彼らの確かな審美眼に、プロフェッショナルな編集能力が光る。
Irish Design Shop
41 Drury St, Dublin(MAP)
https://irishdesignshop.com/
https://www.instagram.com/irishdesignshop/
銀行の重厚な歴史の中で、最高の一杯を「The Bank on College Green」

ダブリンの中心地、カレッジ・グリーンに佇むこの建物は、19世紀後半に銀行として誕生した「ヴィクトリア朝ダブリンの宝石」と称される名建築。名匠ウィリアム・ヘンリー・リンが手掛けた壮麗なバンキング・ホールは、今やその姿を留めたまま、街を代表するパブ・レストランへと昇華されている。ステンドグラスが彩る天井、緻密なモザイクタイル、そして職人の手仕事が光る石膏細工。当時の贅を尽くした装飾が、現代の社交場にそのまま引き継がれている。
圧倒されるのは、約4.5メートルにおよぶ大理石の柱や、かつての金庫室(ボルト)といった銀行時代の遺構が、そのまま贅沢な飲食空間に溶け込んでいる点だ。空間の力に引けを取らず、料理のクオリティも一級品。地中海の魚介やアイルランド産ビーフなど、素材の良さを活かした一皿が、ここでの体験をより豊かなものにしてくれる。



The Bank on College Green
20-22 College Green, Dublin 2, D02 C868
https://www.bankoncollegegreen.com/
https://www.instagram.com/thebankbar
National Gallery of Ireland(アイルランド国立美術館)

ダブリンの中心に位置するこの美術館は、中世から現代に至る膨大なコレクションを誇るが、冬の訪れとともに特別な季節を迎える。その中心にあるのは、イギリスの収集家ヘンリー・ヴォーンが寄贈したJ.M.W.ターナーによる31点の水彩画だ。「繊細な作品を自然光による劣化から守るため、光が最も弱まる1月にのみ公開する」という彼の遺言は、1901年から現在まで、120年以上にわたって実直に守り続けられている。
現地に向かったスタッフが立ち寄ったこの「ターナー展」は、そんな歴史的背景から1月限定で無料公開される極めて貴重な機会。また、鑑賞後にはぜひミュージアムショップへ足を運んでほしい。単なるグッズの枠を超え、地場の新鋭ブランドやアーティストによる限定品、独占販売のフレグランスやハンドペイントのジュエリーなどをセレクトし、アイルランドのクリエイティビティを全方位で支援する美術館側の矜持が感じられる。


National Gallery of Ireland
Merrion Square W, Dublin 2, D02 K303
https://www.nationalgallery.ie/
https://www.instagram.com/nationalgalleryofireland
元貴族の館、日本にルーツを持つ野生の群れに遭遇「Powerscourt Hotel Resort & Spa」

ウィックロウ州に広がるパワーズコートは、アイルランドが誇る屈指の「カントリー・ハウス(カントリー・エステート)」。13世紀の城を起源とし、18世紀に現在のパラディアン様式へと昇華されたこの壮麗な邸宅は、現在、最高峰のラグジュアリーホテルやスパ、そして世界に名を馳せる庭園として知られている。かつての貴族の私邸であった建物に一歩足を踏み入れれば、その圧倒的な豪華さに息を呑む。しかし、この場所の真の魅力は建物だけではない。広大な敷地に生息する「ニホンジカ」との出会いもその一つだ。
1860年、当時の第7代パワーズコート子爵が日本から1頭の雄と3頭の雌を連れ帰ったことに始まるこの物語。彼らはこの地で野生化し、今やアイルランドにおけるシカの主要なルーツの一つとなっている。現地に向かったスタッフを静かに、そして鋭く凝視してくる彼らの瞳に、どこか遠い東の国のルーツを感じずにはいられないはずだ。


Powerscourt Hotel Resort & Spa
Powerscourt Estate, Powerscourt Demesne, Enniskerry, Co. Wicklow, A98 DR12
https://www.powerscourthotel.com/
https://www.instagram.com/powerscourthotel/
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ダブリンの美食家たちに愛され続ける、活気あふれるビストロ「Roly’s Bistro」

高級住宅街ボールズブリッジの一角に佇む「Roly’s Bistro」は、1992年の創業以来、30年以上にわたりダブリンの食卓を支えてきた名店。自らを「アイルランド食材のサポーター」と任じ、一貫して地元産の新鮮な素材に光を当て続けてきたその姿勢。店内はカジュアルなテラスやカフェ、そして凛とした空気の流れるビストロと、訪れる側の気分に寄り添う多様な表情を見せてくれる。
スタッフが3日目の「Sit Down Dinner」として招待されたこの場所は、落ち着いた空間と、付かず離れずの確かなサービスが心地いい。著名人がお忍びで通うのも納得のクオリティだが、根底にあるのはダブリン市民が「ホーム」と慕う温かさだ。アイルランドの食の豊かさを、飾らない真心とともに堪能できる。

Roly’s Bistro
7 Ballsbridge Terrace, Dublin
https://rolysbistro.ie/
https://www.instagram.com/rolysbistro/
地場の黒ビールと地元の熱気「The Bridge 1859」

Roly’s Bistroの目と鼻の先に位置する「The Bridge 1859」は、現役・引退を含むラグビーのアイルランド代表選手たちが共同経営する、エネルギッシュなパブ。ラグビーの聖地、アビバ・スタジアムにほど近く、試合日ともなれば熱狂的なファンで溢れかえる。この店の真骨頂は、何といってもタンクからダイレクトに注がれる「タンクビール」の圧倒的なフレッシュさにある。
滞在中、スタッフが「結局最終地点はここだった」と語るほど、その心地よさは格別。ギネスに留まらない地場のスタウト(黒ビール)や、アイリッシュウイスキー「ジェームソン」を7Upで割る通な一杯など、ひねりの効いたラインナップが、ダブリンの夜をより深く、楽しく演出してくれる。





The Bridge 1859
13 Ballsbridge Terrace, Dublin 4, D04 C7K6
https://www.thebridge1859.ie/
https://www.instagram.com/thebridge1859

